第15回「大学と科学」ここまでわかった都市直下地震
都市の直下地震による災害を防ぐには
土岐 憲三
京都大学大学院工学研究科教授/京都大学総長補佐
はじめに
1995 年の兵庫県南部地震により6,000 余の人命を失い、直接被害は10 兆円に達しましたが、それとともにこの地震は大規模震災に関して多くの教訓をも残しました。技術的な観点からは、これまで内陸の活断層を軽くみすぎていたのではないかと反省しています。今回の特定領域研究は文部省科学研究費の重点領域研究としてスタートしましたが、それに先立つ1987(昭和62) 年から6年間の重点領域研究の発足時に、内陸の地震災害を研究する必要があることにわれわれは気がついていました。しかし、そのときには集中豪雨災害、巨大地震による都市災害、社会における防災力の3点に重点をおいていました。そして、次なる重点領域研究に応募していたとき、神戸で地震が発生したのです。そこで、1995 年1月の兵庫県南部地震の発生後、研究チームを組織して研究費を申請し、1年後からスタートすることになりました。この特定領域研究は、8つの計画研究から構成されています。その8つを大別すると、(1)活断層による強震動と構造物への影響、(2)都市施設の震後機能、(3)リアルタイム地震防災、(4)事前と事後の災害情報の管理と活用、となります。1987 年にスタートした研究は、都市施設にかかわる分重点をおいていましたが、今回は活断層にかかわる分野と災害情報にかかわる分野も研究を手厚くする必要があるという考えのもとに、全体計画を決定したわけです。
研究開発の構成と活動
重点領域研究の発足当初から、どのような方々にどんな研究をしていただくか計画していましたが、同時に、公募研究として多くの方々に申請していただくようにしました。一般公募研究の成果のなかから計画研究に組み入れたほうがよいものがあれば組み入れてきました。地震災害にかかわる研究は、行政などを通じて実際の場にいかされて初めて目的が終了するため、常に社会とかかわりをもっています。もちろん、将来に応用されることを予測した基礎的な研究もあることから、研究のすべてがただちに社会にかかわるわけではありませんが、最終的には何らかのかたちで実際に活用されることが期待されます。そこで、ニューズレターを発行し、千数百部ですが、関係する研究者のみならず技術者、防災関係の行政の方々にも研究成果を伝えてきました。一方、現在は研究の成果を専門家でない方々にも理解してい地震の発生前からそれではいけないことにただけるような平易で読みやすい本をつくる相談も進めています。
専門家を対象としたシンポジウムや、私どもの研究の枠組みのなかで研究されている方々による講演会を、京都、東京、札幌、神戸で開催してきましたし(表1)、海外でも開催してきました。地震に対して同じような問題を抱える国々が多数あることから、世界中のさまざまな都市で研究成果を発表してご理解いただこうと考えていました。しかし、現実には、多くの人間がチームを組織して長期間、海外にいくことには時間や資金の制約があることから、台北とサンフランシスコで報告すると同時に英文の報告書を作成することにとどまっています。(表2)。日本語の報告書より英語の報告書の方が先にできたのも妙な話です。特にアメリカと台湾を選んだのは、技術・研究分野がほかの国々より進んでいるからです。(以下本文へ)